2026.10.21
コラム第59回「自筆証書遺言保管制度の問題点」
令和2年7月10日より法務局にて「自筆証書遺言書保管制度」が始まり既に6年が経過しました。
これまで自宅で保管されることが多かった自筆証書遺言を法務局が預かるこの制度は、手軽な遺言作成の手段としてニュースでも取り上げられました。しかし、実務を担う司法書士の視点から見ると、この制度には「あまり知られていないデメリット」が存在します。今回は、お客様から相続や遺言の相談を受けた際に役立つ、保管制度のメリットと実務上の落とし穴について解説します。
自筆証書遺言の法務局保管制度のメリット
まずはメリットのおさらいです。従来の自筆証書遺言には「紛失・改ざんされる」「死後に発見されない」といったリスクが常につきまといました。しかし、本制度を利用すれば法務局が公的に保管してくれるため、安全性は飛躍的に高まります。
そして最大のメリットは「家庭裁判所での検認手続きが不要になる」という点です。通常、自筆証書遺言を開封・執行するには家庭裁判所での検認が必要ですが、これには1〜2ヶ月程度の時間がかかります。保管制度を利用すればこのステップを省略できるため、従来の自筆証書遺言よりも早期に不動産の相続登記や預貯金の解約手続きに進むことができ、活用の拡大が期待されています。
【あまり知られていない3つのデメリット】
一見すると手軽で安全に見える保管制度ですが、実務上は以下のような大きなデメリットがあります。
① 「遺言書情報証明書」取得の手間が検認手続きと大差ない 検認手続き自体は不要になりますが、遺言者の死後、遺言内容に基づいて不動産の名義変更などを進めるためには、法務局で「遺言書情報証明書」を取得しなければなりません。実は、この証明書を請求するために法務局へ提出すべき書類(遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本など)は、家庭裁判所の検認手続きで要求される書類とほとんど同じです。結局のところ、相続人が負担する戸籍収集などの手間は、従来と大きく変わらないのが実情です。
② 全相続人へ遺言の存在が通知される(争族のリスク)本制度では、相続人の一人が法務局で遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりすると、法務局から「その他のすべての法定相続人」に対して、遺言書が保管されている旨の通知が自動的に発送されます。 公正証書遺言であれば、このような一律の通知制度はありません。突然法務局から通知が届くことで、他の相続人が「自分には何も残されていないのではないか」「勝手に手続きを進められている」と疑心暗鬼に陥り、結果として争う相続(争族)を誘発するリスクがあります。
③ 遺言内容の有効性までは担保されない(無効になるリスク) 法務局で遺言書を預かる際、窓口の担当官は「全文(財産目録を除く)自書されているか」「日付や署名押印があるか」といった『形式的な要件』はチェックします。しかし、遺言の『内容』が法律的に有効かどうか、財産の指定方法に曖昧さがないかまでは確認してくれません。 つまり、遺言書自体の性質は従来の自筆証書遺言と全く同じです。法務局に保管されているからといって内容が保証されるわけではなく、不動産の表記が不正確であったり、解釈が分かれる表現になっていたりして、いざ相続登記をしようとした際に無効となるリスクは、公正証書遺言に比べて格段に高いままなのです。
司法書士からのご提案
このように、法務局保管制度は「保管の安全性」は担保されるものの、相続発生後の手続きの煩雑さ、通知による親族間のトラブル誘発リスク、そして内容が無効になるリスクを依然として孕んでいます。不動産、現金、預貯金、有価証券、債券、貴金属等多岐にわたる相続財産を扱う上では、この曖昧さは致命的になりかねません。
これからご遺言を作成することを検討される場合、遺言の有効性や争族を避けるため、保管制度を利用するよりも「公正証書遺言」の作成をおすすめします。
ご遺言の内容や相続財産の分け方その他ご相続に関するご不明な点は専門家である司法書士をお気軽にご利用ください。
執筆 司法書士法人ファミリア
ファミリアグループサイトはこちら
これまで自宅で保管されることが多かった自筆証書遺言を法務局が預かるこの制度は、手軽な遺言作成の手段としてニュースでも取り上げられました。しかし、実務を担う司法書士の視点から見ると、この制度には「あまり知られていないデメリット」が存在します。今回は、お客様から相続や遺言の相談を受けた際に役立つ、保管制度のメリットと実務上の落とし穴について解説します。
自筆証書遺言の法務局保管制度のメリット
まずはメリットのおさらいです。従来の自筆証書遺言には「紛失・改ざんされる」「死後に発見されない」といったリスクが常につきまといました。しかし、本制度を利用すれば法務局が公的に保管してくれるため、安全性は飛躍的に高まります。
そして最大のメリットは「家庭裁判所での検認手続きが不要になる」という点です。通常、自筆証書遺言を開封・執行するには家庭裁判所での検認が必要ですが、これには1〜2ヶ月程度の時間がかかります。保管制度を利用すればこのステップを省略できるため、従来の自筆証書遺言よりも早期に不動産の相続登記や預貯金の解約手続きに進むことができ、活用の拡大が期待されています。
【あまり知られていない3つのデメリット】
一見すると手軽で安全に見える保管制度ですが、実務上は以下のような大きなデメリットがあります。
① 「遺言書情報証明書」取得の手間が検認手続きと大差ない 検認手続き自体は不要になりますが、遺言者の死後、遺言内容に基づいて不動産の名義変更などを進めるためには、法務局で「遺言書情報証明書」を取得しなければなりません。実は、この証明書を請求するために法務局へ提出すべき書類(遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本など)は、家庭裁判所の検認手続きで要求される書類とほとんど同じです。結局のところ、相続人が負担する戸籍収集などの手間は、従来と大きく変わらないのが実情です。
② 全相続人へ遺言の存在が通知される(争族のリスク)本制度では、相続人の一人が法務局で遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりすると、法務局から「その他のすべての法定相続人」に対して、遺言書が保管されている旨の通知が自動的に発送されます。 公正証書遺言であれば、このような一律の通知制度はありません。突然法務局から通知が届くことで、他の相続人が「自分には何も残されていないのではないか」「勝手に手続きを進められている」と疑心暗鬼に陥り、結果として争う相続(争族)を誘発するリスクがあります。
③ 遺言内容の有効性までは担保されない(無効になるリスク) 法務局で遺言書を預かる際、窓口の担当官は「全文(財産目録を除く)自書されているか」「日付や署名押印があるか」といった『形式的な要件』はチェックします。しかし、遺言の『内容』が法律的に有効かどうか、財産の指定方法に曖昧さがないかまでは確認してくれません。 つまり、遺言書自体の性質は従来の自筆証書遺言と全く同じです。法務局に保管されているからといって内容が保証されるわけではなく、不動産の表記が不正確であったり、解釈が分かれる表現になっていたりして、いざ相続登記をしようとした際に無効となるリスクは、公正証書遺言に比べて格段に高いままなのです。
司法書士からのご提案
このように、法務局保管制度は「保管の安全性」は担保されるものの、相続発生後の手続きの煩雑さ、通知による親族間のトラブル誘発リスク、そして内容が無効になるリスクを依然として孕んでいます。不動産、現金、預貯金、有価証券、債券、貴金属等多岐にわたる相続財産を扱う上では、この曖昧さは致命的になりかねません。
これからご遺言を作成することを検討される場合、遺言の有効性や争族を避けるため、保管制度を利用するよりも「公正証書遺言」の作成をおすすめします。
ご遺言の内容や相続財産の分け方その他ご相続に関するご不明な点は専門家である司法書士をお気軽にご利用ください。
執筆 司法書士法人ファミリア
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