2026.08.17
コラム第55回「遺言で本当に大切なのは、「本人の意思」です。」
近年、不動産会社様から、相続や遺言についてご相談をいただく機会が増えています。
先日も、ご高齢のお客様の遺言作成について、ご本人とご家族からご相談を受けました。ご家族は「元気なうちに遺言を作っておきたい」とお考えでした。一方、ご本人のお話を伺うと、少し違うお気持ちをお持ちでした。
「遠方に住む娘とも一度会って話をしてから考えたい。」
それが、ご本人の率直なお考えでした。遺言は、ご家族のために作るものでもありますが、作成するかどうか、どのような内容にするかを決めるのは、あくまでもご本人です。そのため私たちは、ご家族のお話だけでなく、ご本人の意思を何よりも大切にしています。
今回、ご本人とお話しする中で、私は慎重な対応が必要だと感じました。会話は自然に成り立ち、ご本人なりのお考えもはっきりされています。しかしその一方で、同じ話を初めて話すかのように何度も繰り返されたり、ご自身の年齢を実際よりかなり若く答えられたりする場面がありました。
だからといって、「意思能力がない」と判断できるわけではありません。むしろ、ご本人が遺言の内容を十分に理解し、ご自身の意思で判断できる状態にあるのか、慎重に見極める必要があると感じました。
司法書士は医師ではありません。医学的な診断をする立場でもありません。しかし、遺言が将来にわたって有効なものとなるよう、ご本人の様子を丁寧に確認し、必要に応じて公証人と情報を共有することも大切な役割です。
そこで、公正証書遺言を予定していた私は、公証人へご本人の状況を伝えました。すると公証人から、「念のため認知機能の確認をしておきましょう」との提案がありました。これは、ご本人を認知症だと疑うためではありません。将来、「遺言作成当時は判断能力がなかったのではないか」と争われることを防ぎ、ご本人の意思で作成した遺言であることを客観的に裏付けるためです。
その旨をご家族へお伝えしたところ、ご長男から返ってきた言葉は、「急にそんなことを言われても困ります。父が認知症だと言うんですか。」というものでした。実は、その数日前にも私は、「公証人の判断によっては認知機能の確認をお願いする場合があります」とご説明していました。それでも、「認知機能の確認」という言葉が、「父を認知症扱いされた」という受け止め方につながってしまったのかもしれません。
ご長男のお気持ちも理解できます。親をそのように見られたくないと思うのは、ご家族として自然な感情でしょう。しかし、司法書士や公証人が確認したいのは、「認知症かどうか」ではありません。その遺言が、ご本人の自由な意思によって作成されたものであることを、将来にわたって守ること。そこが最も大切なのです。
その後、ご長男にもご理解いただき、認知機能の確認を受ける方向で話は進みました。しかし、ご本人が体調を崩されたため、結果として検査は行われませんでした。その後の経過はわかりませんが、この出来事は今でも強く印象に残っています。
遺言は、作れば終わりではありません。何年、何十年後に初めて効力を生じ、その有効性が問われることもあります。だからこそ、私たちは「早く作ること」だけを優先しません。ご本人は本当にその内容を望んでいるのか。内容を理解したうえで判断しているのか。そして、その意思が将来も尊重される遺言となるのか。そこまで考えてこそ、安心して遺言作成を進めることができます。
不動産会社様も、相続のご相談を受けた際には、ご家族のご希望だけでなく、「ご本人はどう考えておられるのか」という視点も大切にしていただければと思います。
遺言で最も大切なのは、書類を作ることではなく、ご本人の意思を確かな形で未来へつなぐことです。それこそが、私たち司法書士の大切な役割だと考えています。
執筆 司法書士法人ファミリア
ファミリアグループサイトはこちら
先日も、ご高齢のお客様の遺言作成について、ご本人とご家族からご相談を受けました。ご家族は「元気なうちに遺言を作っておきたい」とお考えでした。一方、ご本人のお話を伺うと、少し違うお気持ちをお持ちでした。
「遠方に住む娘とも一度会って話をしてから考えたい。」
それが、ご本人の率直なお考えでした。遺言は、ご家族のために作るものでもありますが、作成するかどうか、どのような内容にするかを決めるのは、あくまでもご本人です。そのため私たちは、ご家族のお話だけでなく、ご本人の意思を何よりも大切にしています。
今回、ご本人とお話しする中で、私は慎重な対応が必要だと感じました。会話は自然に成り立ち、ご本人なりのお考えもはっきりされています。しかしその一方で、同じ話を初めて話すかのように何度も繰り返されたり、ご自身の年齢を実際よりかなり若く答えられたりする場面がありました。
だからといって、「意思能力がない」と判断できるわけではありません。むしろ、ご本人が遺言の内容を十分に理解し、ご自身の意思で判断できる状態にあるのか、慎重に見極める必要があると感じました。
司法書士は医師ではありません。医学的な診断をする立場でもありません。しかし、遺言が将来にわたって有効なものとなるよう、ご本人の様子を丁寧に確認し、必要に応じて公証人と情報を共有することも大切な役割です。
そこで、公正証書遺言を予定していた私は、公証人へご本人の状況を伝えました。すると公証人から、「念のため認知機能の確認をしておきましょう」との提案がありました。これは、ご本人を認知症だと疑うためではありません。将来、「遺言作成当時は判断能力がなかったのではないか」と争われることを防ぎ、ご本人の意思で作成した遺言であることを客観的に裏付けるためです。
その旨をご家族へお伝えしたところ、ご長男から返ってきた言葉は、「急にそんなことを言われても困ります。父が認知症だと言うんですか。」というものでした。実は、その数日前にも私は、「公証人の判断によっては認知機能の確認をお願いする場合があります」とご説明していました。それでも、「認知機能の確認」という言葉が、「父を認知症扱いされた」という受け止め方につながってしまったのかもしれません。
ご長男のお気持ちも理解できます。親をそのように見られたくないと思うのは、ご家族として自然な感情でしょう。しかし、司法書士や公証人が確認したいのは、「認知症かどうか」ではありません。その遺言が、ご本人の自由な意思によって作成されたものであることを、将来にわたって守ること。そこが最も大切なのです。
その後、ご長男にもご理解いただき、認知機能の確認を受ける方向で話は進みました。しかし、ご本人が体調を崩されたため、結果として検査は行われませんでした。その後の経過はわかりませんが、この出来事は今でも強く印象に残っています。
遺言は、作れば終わりではありません。何年、何十年後に初めて効力を生じ、その有効性が問われることもあります。だからこそ、私たちは「早く作ること」だけを優先しません。ご本人は本当にその内容を望んでいるのか。内容を理解したうえで判断しているのか。そして、その意思が将来も尊重される遺言となるのか。そこまで考えてこそ、安心して遺言作成を進めることができます。
不動産会社様も、相続のご相談を受けた際には、ご家族のご希望だけでなく、「ご本人はどう考えておられるのか」という視点も大切にしていただければと思います。
遺言で最も大切なのは、書類を作ることではなく、ご本人の意思を確かな形で未来へつなぐことです。それこそが、私たち司法書士の大切な役割だと考えています。
執筆 司法書士法人ファミリア
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