2026.03.30
コラム第45回「不動産オーナーが今こそ考えたい『家族信託』という選択肢」

高齢化が進む中、不動産オーナーの皆様から「将来、認知症になったら物件の管理はどうなるのか」「相続で家族が揉めないだろうか」といったご相談をいただく機会が年々増えています。アパートや賃貸マンション、土地といった不動産は、大切な資産であると同時に、日々の管理や意思決定を伴う“動かす資産”です。修繕の判断、賃貸条件の変更、借入の見直し、建替えや売却の決断など、オーナー様の判断が求められる場面は少なくありません。だからこそ、元気なうちからの備えが重要となります。
そこで近年注目されているのが「家族信託」という制度です。
家族信託とは、自身の財産を信頼できる家族(受託者)に託し、あらかじめ定めた信託目的に従って管理・運用・処分をしてもらう仕組みです。例えば、収益物件を所有している方が、将来の判断能力低下に備えてお子様を受託者として定めておくことで、修繕契約の締結や大規模改修、借り換え、建替え、売却といった経営判断をスムーズに行うことが可能となります。これは、賃貸経営を止めないための仕組みづくりと言えるでしょう。
通常、認知症などで判断能力が低下すると、不動産の売却や担保設定、大規模修繕契約などが単独ではできなくなります。その場合は、成年後見制度の利用を検討することになりますが、この制度はあくまで「本人の財産を守る(減らさない)」ことが主眼です。積極的な資産活用や大胆な組み替えは、実務上困難です。
実際に、不動産取引の現場で売主の意思確認ができず、やむなく契約が中止となる場面に立ち会うことがあります。ご家族も不動産会社様も動きたくても動けない。その状況は決して珍しくなく、機会損失やご家族の精神的負担は決して小さくありません。
一方で家族信託は、「資産をどう活かしたいか」というオーナー様の想いを契約内容に反映できる点が大きな特徴です。賃料収入を配偶者の生活費に充てる、将来は売却して介護費用に充当する、収益を修繕積立に回すなど、目的を明確に設計できます。単なる管理の引継ぎではなく、経営方針そのものを承継する仕組みと言えるでしょう。
また、家族信託は相続対策としても有効です。例えば「自宅は長男に承継させたいが、その後は孫に引き継いでほしい」といった二次相続以降の承継先まで指定することが可能です。遺言では一代限りの指定が原則であり、その先まで拘束力をもって定めることはできません。長期的な資産承継の設計ができる点は、不動産を複数所有されている方にとって大きなメリットとなります。共有名義の不動産や、将来分割が難しくなることが予想される物件についても、あらかじめ道筋をつけておくことで、紛争予防にもつながります。
もっとも、家族信託は万能ではありません。税務・法務・不動産実務が交差する分野であり、設計を誤ると期待した効果が得られないこともあります。だからこそ、税理士や司法書士、不動産実務に精通した専門家が連携し、オーナー様の人生設計やご家族の状況を踏まえて丁寧に組み立てることが重要です。
そして、その第一歩は、「知ること」から始まります。
大切な不動産を、次の世代へ円滑につなぐために。資産を「守る」だけでなく、「活かす」という視点を持つことが、これからの不動産経営において大きな差となるはずです。家族信託という選択肢を、ぜひ一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。
執筆 司法書士法人ファミリア
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