2026.02.28

コラム第44回「“売却だけ後見”は可能か ― 不動産実務と成年後見制度のこれから ―」



 高齢化が進むなか、認知症の高齢者が所有する不動産を売却したいという相談は年々増えています。施設入所の費用をまかなうため、空き家になった実家を処分するためなど、理由はさまざまです。
 しかし、その際に問題となるのが「本人の判断能力」です。不動産を売却するには、契約の内容を理解し、判断できる能力が必要です。もしその能力が不十分な場合、そのまま契約を進めると、後から「契約は無効だ」と争われるおそれがあります。
 
 このような場合に利用が検討されるのが「成年後見制度」です。家庭裁判所に申し立てを行い、本人に代わって契約などを行う人(後見人)を選んでもらう制度です。不動産の売却も、後見人が本人に代わって行うことができます。
 もっとも、実務の現場では「不動産を一件売却するためだけに後見を申し立てるのは負担が大きい」と感じることも少なくありません。
 成年後見制度は、特定の手続きだけでなく、本人の財産全体を継続的に管理する仕組みです。売却が終わった後も制度は原則として続き、家庭裁判所への報告や後見人への報酬も発生します。本人を守るための大切な制度ではありますが、「売却だけできれば足りる」というケースでは、やや重たい制度と感じられることがあります。
 
 そこで近年、議論されているのが「スポット後見」や「限定型後見」と呼ばれる考え方です。これは、例えば「この不動産の売却に限って代理できる」というように、特定の行為だけを対象とする仕組みを想定するものです。売却が終われば役目も終える、というイメージです。
 現時点では、そのような制度が正式に整っているわけではありません。しかし、成年後見制度の見直しに向けた議論の中では、「必要な場面で、必要な範囲だけ支援する」という方向性が検討されています。高齢化社会の実情に合わせて、より使いやすい制度へと見直す動きが出てきているのです。
 
 一方で、不動産は高額な財産です。売却価格が適正かどうか、本人の利益が守られているかといった点を、どのようにチェックするのかという課題もあります。制度を簡単にする一方で、本人を守る仕組みをどう維持するかが重要なポイントになります。
 宅建業者の皆様にとっては、「売却できるのかどうか」は実務上の大きな問題です。判断能力に不安があるまま契約を進めることはリスクがありますし、かといって後見制度の利用が現実的でない場合、取引が止まってしまうこともあります。
 だからこそ、早い段階で判断能力の状況を確認し、ご家族や専門家と連携することが大切です。任意後見契約や家族信託といった別の方法が適している場合もあります。案件ごとに、どの手段が最も適しているのかを検討する姿勢が求められます。
 
 「売却だけ後見」という議論は、高齢社会における不動産取引のあり方を考えるうえで重要なテーマです。今後の制度改正が実現すれば、不動産の流通や空き家問題の解消にも影響を与える可能性があります。実務に携わる皆様にも、ぜひ注目していただきたい論点です。

執筆 司法書士法人ファミリア
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