2026.02.20

コラム第43回「不動産計画が突然とまる 家族信託が“間に合った”実例が示す教訓」



 不動産の売却や建替えは、当然ながら「所有者に判断能力があること」を前提に進められます。しかし、高齢化の進展とともに、認知症によって不動産計画が止まるリスクが、いまや現実のものとなっています。
 
 昨年の秋頃、H信用金庫から紹介された案件も、その典型例でした。
 対象不動産は、母親と長男の共有名義となっている土地建物です。既存建物を取り壊し、共有土地を売却したうえで、隣地にある長男単独所有の土地に、母親と長男の共有名義で新たに建物を建築する計画が進められていました。
 
 実はこの時点で、母親はすでに認知症を発症しており、判断能力の低下が顕在化していました。
 土地売却の際、決済を担当した司法書士は、「今回は何とか売却意思を確認できたが、この先は厳しくなるのではないか」という懸念を吐露していたそうです。
 その懸念どおり、問題はその先にありました。新たな建物の建築には、母親の資金協力が不可欠だったのです。しかし、今後さらに判断能力が低下すれば、資金の拠出は困難となり、建築計画は事実上ストップしてしまいます。また、母親の預金の大部分がH信用金庫に預金されていたため、今後、母親の介護費用や入院費用、施設入所費用など生活に必要なお金を下ろせなくなる可能性が高い状況にありました。
 そこで検討したのが「家族信託」です。長男が母親の金銭を管理できるよう、母親と長男との間で信託契約を締結し、将来予定している建築資金・介護費用・入院費用・施設費用等に信託した金銭を充てられるよう、契約内容を具体的に定めました。この契約により、母親の判断能力がさらに低下したとしても、長男の権限で必要な費用を支出することが可能となります。
 
 本件は「ぎりぎり間に合った」事例でした。もし母親の判断能力の低下がもう一段進んでいれば、そもそも信託契約自体が成立していませんでした。実際、そのように間に合わなかったケースは珍しくありません。理想を言えば、既存建物を取り壊す前、さらには認知症の兆候が出る前の段階で、母親名義の土地建物や金銭を信託財産として信託契約を締結しておくべきでした。そうしていれば、長男は将来の認知症リスクを気にすることなく、土地の売却等、より安心してスムーズに進めることができたことでしょう。
 
 今回のケースは、信用金庫の担当者が家族信託という選択肢を提示したことで、かろうじて間に合った事例でした。しかし現実には、家族信託という制度そのものが十分に知られておらず、適切な対策が取られないまま、資産が凍結しまうケースが少なくありません。
 
 家族信託は、こうした事態を未然に防ぐための「特別な対策」ではなく、家族の生活や福祉を守るための現実的な選択肢の一つなのです。
 
 本件は、家族信託が有効だったという点以上に、「知っていれば、もっと早く備えることができた」という点にこそ、大きな教訓があると考え、ご紹介しました。少しでもご参考になれば幸いです。


執筆 司法書士法人ファミリア
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