2025.10.31

コラム第36回「所有者不明土地問題について」



 近年、登記簿上で所有者が判明しない、または所有者と連絡が取れない土地が全国的に増加し、社会問題となっています。これを「所有者不明土地問題」と呼びます。このような土地は、公共事業や民間の再開発、地域の利活用の妨げとなっており、国土交通省の調査では2016年時点で約410万ヘクタール(九州本島に相当)が該当するとのことです。これに伴う経済的損失は、年間で数千億円にも上るとされています。
 
 所有者不明土地が発生する主な原因は三つあります。第一に、相続登記が義務でなかったため、長年放置されるケースが多く、世代をまたいで相続人が増え、所有者の特定が困難になることです。第二に、所有者の不在や高齢化によって、連絡が取れなくなる例が地方を中心に増えています。第三に、権利関係の複雑化があります。長期間登記されていない土地では、所有権が多数の相続人に分かれ、合意形成が困難となり、売却や利用が進みません。

 この問題により、社会や経済に多大な影響が出ています。たとえば、道路整備や防災工事といった公共事業では、対象地に所有者不明の土地が含まれると、用地取得が進まず、事業そのものが遅延します。また、耕作放棄地や空き家の増加による景観の悪化、治安の悪化も懸念されます。さらに、固定資産税の徴収が難しくなることで、自治体の税収が減り、地域経済の衰退につながります。
 
 これらの状況を受け、政府は制度改革を進めています。大きな転換点となったのが、令和6年4月に施行された相続登記の義務化です。これにより、相続等により不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を行う必要があり、違反には10万円以下の過料が科されることもあります。
 
 また、令和8年4月1日から住所変更登記も義務化になります。これらの改正は、土地の活用や処分を促進するための重要な措置です。
 これらにより登記情報の整備も進められています。たとえば、住所変更登記に関して、登記官が職権で調査・修正できる範囲を拡大し、住民基本台帳ネットワークと連携して、所有者情報の把握がしやすくなりました。これにより、登記簿の精度が向上し、より正確な土地情報の整備が期待されています。
 
 しかし、今後も課題は残ります。すでに存在する所有者不明土地の整理には多大な労力が必要であり、相続人の調査や合意形成には専門知識と手続きの煩雑さが伴います。また、国民全体が不動産の登記に対する意識を高めることも重要です。
 
 今後は、自治体や専門家との連携、デジタル技術を活用した登記・相続手続きの簡略化、地域の空き地バンクなどを通じた土地利活用の促進が求められます。最終的には、個人が自らの土地について正しい知識と関心を持ち、相続が発生した場合には速やかに登記を行うことが、問題解決への大きな一歩となるでしょう。


執筆 司法書士法人ファミリア
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