2025.10.17

コラム第35回「買主を変える場合はどうすれば?~契約上の地位の移転~」




 不動産の売買契約を進める中で、契約締結後に「買主を変更したい」というご相談をいただくことがあります。
 たとえば、不動産業者の方から「買主を甲から乙に変更したい」「当初は夫の甲一人で買う契約だったけれど、妻の乙と共有にしたい」「甲と乙の変更の合意書を作ったから、そのとおり登記してほしい」といったご相談です。
一見すると、書類の修正だけで済みそうに思えますが、実はこの「買主の変更」は、民法上の「契約上の地位の移転」に該当し注意が必要です。法律 上の手続を踏まないまま進めると、思わぬトラブルを招くことがあります。

契約上の地位の移転とは
 「買主が変わる」「買主が増える」ということは、法律的には単なる「変更」ではありません。
 これは、もともとの買主(甲)が持っていた「契約上の地位」を新しい買主(乙)に譲ることを意味します。
 つまり、甲が乙にその地位を「譲渡」する形で移転させる必要があるのです。
 民法第539条の2では、この「契約上の地位の譲渡」について次のように定めています。
 「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。」
 つまり、契約の当事者の一方(この場合は買主である甲)が、第三者(新しい買主乙)に「契約上の地位を譲渡したい」と合意しても、それだけでは不十分で、もう一方の当事者、つまり「売主の承諾」がなければ法律上は有効に移転しません。

買主を変更するための正しい手順
 買主を変更するには、次の三段階が必要です。
 ①旧買主(甲)と新買主(乙)の間で、契約上の地位の譲渡契約を結ぶこと。
 ②その後、売主に対して、買主変更(地位譲渡)について承諾をもらうこと。
 ③承諾を得たうえで、契約書や登記手続を整えること。
 このいずれか一つでも欠けてしまうと、買主変更の効力は生じません。
 たとえ甲と乙の間で「買主を乙に変える」という合意書を作っても、売主の承諾がなければ法律上の効果は発生せず、依然として「買主は甲のまま」という扱いになります。
 そうなると、登記の手続きや代金支払の責任の所在などに混乱が生じ、後々大きな問題へと発展しかねません。
 なお、この「契約上の地位の譲渡」以外の方法で買主を変える場合は、いったん現在の売買契約を解除して白紙に戻し、新しい買主と改めて契約を締結するしかありません。
 そのため、契約変更は慎重に行う必要があります。

トラブルを防ぐためにできること
 このような問題を防ぐ最も確実な方法は、**「買主が確定してから契約を結ぶ」**ことです。
契約締結後に「共有にしたい」「名義を変えたい」となると、手続が複雑になるだけでなく、売主の承諾を得られずに取引が進められなくなるおそれもあります。
 契約前に、誰が実際の買主になるのか、共有にするのか単独にするのかをしっかりと確認しておくことが大切です。

専門家への相談をおすすめします
 買主変更や契約上の地位の移転は、一見単純な変更のようでいて、法律的には非常に複雑で繊細な問題を含みます。
 書類の作成ひとつをとっても、単なる「合意書」では不十分で、民法上の要件を満たした契約や承諾が必要です。
 また、登記の段階では、誰を買主として登記するかによって権利関係が確定してしまうため、後から修正することは容易ではありません。
 こうした場合には、司法書士等の名義変更や登記手続きの専門家に早めに相談することを強くおすすめします。
 契約前に相談を受けることで、手続の選択肢やリスクを把握でき、トラブルを未然に防ぐことができます。
 お客様にとって不動産の売買は一生に何度もない大きな取引です。
 後からトラブルとならないように、少しでも不安な点があれば、遠慮なく専門家へご相談ください。

執筆 司法書士法人ファミリア
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