2025.09.30
コラム第34回「不動産登記の基本ルール」

不動産を購入するとき、契約書を交わして代金を支払えば取引は終わり、と考えてしまう方も少なくありません。ところが実際には、その先にもうひとつ大切な手続きが待っています。それが「不動産登記」です。登記とは、土地や建物といった不動産の権利関係を法務局に備え付けられた登記簿に記録する制度であり、誰が所有者なのかを社会全体に公示する役割を持っています。売主と買主がともに自然人、つまり法人ではなく個人である場合でも、このルールは変わりません。本稿では、そのようなケースにおける登記申請の基本的なルールについて整理してみましょう。
1. 登記申請は「共同申請」が原則
まず押さえておくべき大原則は、登記の申請は「共同申請」で行うという点です。不動産登記法では、権利の移転や設定に関する登記は、権利を失う側と得る側の双方がそろって申請しなければならないと定められています。例えば売買による所有権移転登記では、売主(権利を譲渡する人)と買主(新しく権利を得る人)が共同して申請する必要があります。買主が単独で「自分が新しい所有者です」と主張しても、法務局は受理しません。理由としては権利を手放す売主が登記手続きに関与せずに買主が勝手に申請出来てしまうのであれば、実際に買主でもない人が偽って登記申請をすることで売主の権利を侵害出来てしまうこととなります。
これでは不動産登記制度の信頼を担保することができず、登記制度そのものに意味がなくなってしまうからです。
ただし、双方が委任状を作成すれば司法書士が代理で申請可能です。
此方は一般的によくあるケースであり、勿論その場合も買主売主の双方から委任状が必要です。
2. 登記原因と日付の明確化
登記簿には「どのような理由で権利が移転したのか」を明記しなければなりません。これを「登記原因」と呼びます。自然人同士の売買の場合、原因は多くが「売買」ですが、契約成立日を正確に登記原因日付として記載します。
例えば売買契約成立日が令和7年9月17日で成立したとするならば以下となります。
例:「令和7年9月17日売買」
但し、一般的には売買代金を買主が受領したときに所有権が移転する旨の特約(所有権移転時期特約)を契約で儲けている場合が殆どなのでその場合の日付はお金を売主が買主から受領した日となります。
3. 必要書類
売主・買主双方が自然人である場合、主に以下の書類を準備します。
売主側
①権利証
登記識別情報通知又は登記済証のことを言います。権利証は不動産の名義人(権利を失う者)しか持ちえないものであり、権利証を提供するということは名義人本人で間違いなく、登記申請が正しいという一つの要素となっております。
②印鑑証明書
此方も原則本人しか出すことが出来ないものであり、権利証同様に名義人が登記申請に関与していることの要素であります。なお、作成後3か月以内のものである必要があります。
古すぎると過去に違う目的で発行したものを本人の意思に反して使用される恐れがあるからです。
③登記原因証明情報
売買契約書又はその事実がわかる証明書
のこと。一般的には司法書士が売買契約書を基に作成して売主の署名と押印を頂く書類となります。
④委任状
司法書士が代理する場合に必要なもので登記原因証明情報同様に司法書士が作成して売主の署名と実印による押印が必要となります。
⑤固定資産評価証明書
登録免許税の算定に使用するものとなります。一般的には売主側の不動産仲介さんが準備することが殆どとなります。
買主側
①住民票
新所有者の住所証明書となります。不動産登記において登記簿には名義人となる者の住所と氏名が載ることとなり、これは公的な書類、市役所等が発行する住民票によって証明することとなります。
②委任状
売主同様に司法書士が代理する場合に必要なもので、売主と異なる点は買主の場合は委任状に押印する印鑑は実印である必要はございません。
但し実務上案内する際は売主の必要物案内と混乱させないためあえて実印をご案内する場合が多いかと思われます。
以上が必要な書類であり、登記申請後に法務局へ提出するものとなります。
4. 登記完了後
法務局での審査を経て登記が完了すると、新しい登記識別情報通知が買主に交付されます。これはいわば現在の権利証にあたる大切な書類なので、厳重に保管が必要です。
まとめ
自然人同士の不動産売買における登記申請は、いくつかの基本ルールに基づいて進められます。
登記は共同申請が原則であること
登記原因と日付を正確に記載すること
売主・買主それぞれが必要書類を用意すること
完了後に交付される登記識別情報を大切に保管すること
不動産取引は一生に何度も経験するものではなく、多くの人にとっては不慣れな手続きです。書類の不備や手続きの誤りがあると、登記が受理されなかったり、予定どおりに所有権移転ができない事態にもなりかねません。そのため、実務においては司法書士に依頼し、専門家のチェックを経て確実に手続きを進めるのが安心です。契約と同じくらい大切な登記の手続き。取引を安全に完結させるためには、登記の基本ルールを理解しておくことが不可欠なのです。
執筆 司法書士法人ファミリア
ファミリアグループサイトはこちら