2025.07.22

コラム第29回「遺産分割協議と遺言」



 不動産の現場では、「相続が絡んでいる物件だから進めにくい」という場面に、一度は直面されたことがあるのではないでしょうか。名義変更が済んでいない、相続人が多数いる、なかには音信不通の相続人が……。こうした「相続由来の不動産」は、取引を複雑にする大きな要因の一つです。
 その中心にあるのが「遺産分割協議」と「遺言書」の問題です。司法書士として日々登記に関わるなかで、不動産に携わる皆さまが前線で直面されるご苦労を感じています。今回は取引に大きく影響するこの二点について、整理してみたいと思います。


遺産分割協議とは?
 相続が発生すると、被相続人が所有していた不動産は、相続人全員の「共有」状態となります。とはいえ、このままでは売却も登記もできません。  
 遺産分割協議によって「誰が何を相続するのか」を明確にし、それをもとに名義変更(相続登記)を行う必要があります。
 協議は相続人全員の合意がなければ成立せず、1人でも欠ければ無効です。これがまた大きなハードルとなります。相続人の所在不明、高齢による判断能力の問題、あるいは過去の感情的なわだかまり……協議の壁は多くの取引の前に立ちはだかっています。
 最近では、こうした事情によって長期間放置された物件が「特定空き家」として行政の是正対象となるケースも増えており、社会的にも大きな課題になっています。


遺言があるとスムーズになる?
 一方、遺言書が残されている場合は、基本的にその内容に従って相続手続きが進みます。たとえば「子Aにこの土地を相続させる」と明記された遺言があれば、他の相続人の同意なく単独で相続登記が可能です(特に公正証書遺言であれば手続きは格段にスムーズです)。
 とはいえ、「遺言があればすべて解決」とはいきません。自筆証書遺言では、家庭裁判所での検認が必要ですし、内容が曖昧だと、かえって争いの火種になることも。
 また、新たに「デジタル遺言」の制度の導入も予定されており、その具体的な運用や実務への影響については、今後の展開を注視していく必要があります。 
 さらに、遺言が不動産だけを対象としている場合、その他の資産や寄与分の主張などから相続人間で別のトラブルが起きることも。遺言は万能ではなく、あくまで“相続を円滑にするための道具”として捉える必要があります。


依頼人への“ひとこと”
 現場では、「これは買い手がつきそうなのに、相続で止まっているのがもったいない」という声をよく耳にします。そんな時、不動産に携わる皆さまから「もし登記が済んでいなければ、一度司法書士にご相談を」という“ひとこと”があるだけで、依頼人にとっては大きな後押しになります。
 もちろん、相続はデリケートな話題ですので踏み込みすぎる必要はありません。ただ、相続登記が2024年4月から義務化された今、不動産を動かすうえで“無関心ではいられない話”にもなってきました。
 この背景には、国の「所有者不明土地問題」への対策があります。所有者が不明なまま放置された土地の面積は、九州全土を上回るとも言われています。これにより、自治体の再開発やインフラ整備が滞るなど、全国的に大きな影響が出始めており、不動産流通を担う皆さまにも無関係ではいられない状況です。


相続を「争いのタネ」ではなく「つなぐ機会」に
 不動産に携わる皆さんと司法書士が力を合わせれば、相続の話もスムーズに進みます。
 私たちも、そのお手伝いができればと思っています。


執筆 司法書士法人ファミリア
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