2025.05.31
コラム第26回「相続財産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求」

民法第1046条1項
1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
遺留分とは、兄弟姉妹を除いた法定相続人に認められた民法上保証された最低限の相続分のことを言います。被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのない権利です。
遺留分の割合は、下記のようになります。
1,相続人が、配偶者・直系卑属(こども、孫等)のどちらか一方でもいる場合は、相続財産の2分の1
2,相続人が直系尊属(親、祖父母等)だけの場合は、相続財産の3分の1
上記の割合で算出した金額をさらに法定相続の割合で計算したものが遺留分となります。
たとえば、被相続人Dの相続人は妻AとこどもB・Cの2人だったとします。
このケース、妻Aの遺留分は4分の1でこどもB・Cの遺留分はそれぞれ8分の1となります。ただし、遺留分は自動的に認められるものではなく、「遺留分を主張する」意思表示が必要となります。また遺留分の請求には下記の通り、知った時から1年または知らなくても10年の期限があるので注意しなければなりません。
民法1048条
遺留分侵害額の請求は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年間を経過したときも、同様とする。
また、遺留分侵害額請求(民法第1046条)の制度は、2019年7月1日に施行されました。これにより以前は遺留分侵害請求により共有財産になっていた相続財産が、金銭債権化されたことで遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるのみとなりました。
たとえば、遺言書に「遺言者は、遺言者が有する次の不動産αをC(相続人以外)に贈与するとあったとします。
この場合、妻Aには、遺留分として4分の1の権利がありますので、権利行使することができます。
それでは、相続財産が不動産しかない場合はどうなるのか。
こたえは、上記の場合は、不動産を現金化することなく、「代物弁済」を原因として不動産の所有権移転登記ができます。
ただし、この場合は、D名義の不動産を直接妻A名義に登記することはできません。遺言書の通りに一度、Cを登記名義人としてから、改めてAを登記名義人とする所有権移転登記を申請する必要があります。
最後に、遺留分は放棄することもできます。
被相続人の生前に行う場合は、下記の3つの要件が必要になり簡単ではありませんが、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立をすることで行うことができます。
1,遺留分の放棄が本人の自由意思に基づいていること(一度なされたら撤回することはできません)
2,遺留分の放棄に合理的な理由・必要性があること(自分に資力が十分にあるため、遺留分は不要だという主張では、相続開始前の遺留分放棄できません)
3,遺留分放棄の見返りがあること(将来的に獲得する予定といった場合には認められません)
相続開始後に遺留分の放棄を行う場合は、家庭裁判所の許可は必要ありません。また意思表示のみでも可能です。
執筆 司法書士法人ファミリア
ファミリアグループサイトはこちら