2024.09.30
コラム第10回「後見制度について」
1.後見制度って?
ここ何年もニュースの中で「高齢化社会」について触れられています。
不動産取引の現場でも、ご高齢のお客様が多くいらっしゃいます。もちろん、その方がお元気であれば契約には何ら支障はありません。
ただ、残念ながら、重度の認知症を患った方は、ご自身で契約行為をすることができません。「意思判断能力がない」と表現されます。
そうなると、その方は、重要な契約をご自身で結ぶことができません。
そこで、そういった方々をサポートし、安心して社会生活を送っていただくための制度が、「後見制度」です。
一口に後見制度といっても、その内容によって、「補助」「保佐」「法定成年後見」「任意成年後見」といった形に分かれます。基本的には「被後見人(後見を受ける人)」の判断能力によってその内容が分かれますが、日本では「法定成年後見」の利用が70%ほどを占めています。そこで、ここでは、法定成年後見についてお話します。
2.法定成年後見制度って?
法定成年後見制度は、判断能力が欠けているのが「常況」にある人をサポートする制度です。家庭裁判所の選任した「成年後見人」が、後見を受ける「被後見人」の財産を管理し、生活環境を整えるためのサポートを行います。被後見人の方の財産を守り、被後見人のための契約を行う、それが成年後見人です。被後見人の方が例えば介護施設に入所契約をするとき、契約ができなくて困るということがないよう、代わって契約事を行います。
3.どんな人がなる?
成年後見人は、家庭裁判所によって選任されます。どんな人が選任されるのかというと、ご家族の方がなることもありますが、現状弁護士や司法書士などの専門職が選任されるケースがほぼ8割を占めています。ご本人の生活環境や財産状況を鑑み、最適と考える人を家庭裁判所が選任します。
4.居住用不動産の処分には注意
上に述べた通り、後見人は被後見人に代わり契約事を進めることができますが、だからといって、被後見人の代わりにどんな契約でも勝手にできるわけではありません。それでは、被後見人の財産や権利を守るという制度主旨に反することになります。
特に、注意が必要なのが、居住用不動産の処分。処分とは売買だけでなく、賃貸や、抵当権の設定などもあたります。これをするには、家庭裁判所に特別な許可を得ることが必要になるのです。
ここにいう居住用不動産とは、①被後見人が現に住んでいる土地建物②かつて住んでいた土地建物③将来家を建てるつもりで買った土地、などが該当します。例えば、今は施設に住んでいる被後見人の方の、かつて住んでいた土地や建物、これも後見人が勝手に処分することはできません。
一つ例をあげます。
被後見人であるお祖父さん(Aさん)、認知症で今は施設に住んでいます。空いたAさんの土地にお子さん(Bさん)が家を建てたいと考えているケース。Aさんの土地の処分行為が必要なため、後見人が選任されました。
Bさんが家を建てる方法として、まず、Aさんの土地をBさんに名義変更(所有権移転登記)するということが考えられます。しかし、これは難しいと思われます。なぜなら、Aさんがかつて住んでいた土地は、今は住んでいなくても「居住用不動産」であり、家庭裁判所の許可なしに名義変更はできません。今回のケース、Aさんは名義変更するとただ損するだけの立場なので、許可を得るのは難しいと思います。
それでは、この土地に、名義を変えないままBさんが家を建ててしまうのはどうでしょうか。これも難しいと思われます。というのも、家を建てるにあたっては住宅ローンを通常契約します。土地名義人も契約当事者として銀行と契約を結ぶ必要がありますが、認知症のAさんは銀行と抵当権設定契約を結ぶことはできません。では、後見人が代わりに銀行と契約を行えるか。しかし、この土地は居住用不動産にあたるため、抵当権設定には家庭裁判所の許可が必要になります。これもAさんのことを考えれば、家庭裁判所の許可を得ることは難しいと思われます。
5.まとめ
後見制度は、被後見人の権利を守るための制度です。その趣旨を正しく理解して制度利用することが大切です。より利用しやすい制度に変わるべく、制度の改正議論も進んでいます。ただ、上記のように、慎重な配慮が必要で、また、一度利用を始めると、途中で利用を取りやめることは基本的にできない制度です。ご利用の際は、ぜひ専門家や家庭裁判所に相談して進めていただけたらと思います。
執筆 司法書士法人ファミリア
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