2024.08.31
コラム第8回 人生最期のお金の使い方「遺贈寄付」という選択
1 人生を支えた食を通して貢献したい
昨年の夏、80代の女性Tさんから遺言の相談を受けました。生涯独身で一人っ子だったため推定相続人はおらず、1億円以上の金融資産をお持ちでした。既にガンの末期で、急いで財産の承継先を決めねばなりませんでした。希望の寄付先を尋ねると、「WFP国連世界食糧計画」と書かれたメモを渡してくれました。「長年大学病院で管理栄養士をしていたので食べ物の重要性は人一倍よく理解しています。だから、食料支援を通して人道支援を行っている国連WFPに全ての財産を寄付したいのです。」終末期とは思えないしっかりとした口調で想いを語ってくれました。
残念ながら公正証書遺言を作成して3か月後に亡くなられましたが、私共が遺言執行者として執行手続きを行い、先日国連WFPへの遺贈が完了しました。Tさんの遺志と遺産は遺贈寄付により国連WFPに引き継がれ、この先多くの命が救われていくことと思います。
2 遺贈寄付が社会を変える
遺贈寄付とは、人生で使わずに残ったお金を社会課題の解決のために非営利活動法人や地方自治体等に寄付する方法です。
遺贈寄付件数は年々増加しており、その社会的背景のひとつが、おひとりさまの増加です。他にも、東日本大震災を機に社会貢献意識が高まり、子供達だけでなく社会にも還元したいという意識変化が起きているのも一因です。
また、毎年50兆円もの財産が相続で動いていますが、その大半が60歳以上に相続される「老老相続」です。その結果、財産が高齢者間でぐるぐる回り続け、50代以下の世代に資金が巡らないという悪循環が起きています。
こうした状況を打開する策として遺贈寄付は注目されています。もし50兆円のうちたった1%でも寄付に回れば、年間5000億円もの資金が社会課題の解決のために活用できます。1000万円の財産のうち10万円を遺贈寄付に回すだけで、社会を大きく変えられるのです。
3 遺贈寄付のはじめかた
遺贈寄付は少額1万円からでも可能です。また、死後に残った財産から寄付するので老後資金を心配する必要はありません。
では具体的にどう動いていけばよいのでしょうか。
①寄付額・寄付先を決める
子供や配偶者には「遺留分」という法律で最低限守られた相続分があります。この遺留分に配慮して寄付額を決めましょう。
寄付先に迷った時は、自分が何を願い、遺産を使って何をかなえて欲しいのか、ご自身の考えをまとめてみましょう。
遺贈寄付の相談事業を行っている以下の団体に相談してみるのもよいでしょう。
・日本承継寄付協会
・全国レガシーギフト協会
・日本財団
②遺言書を作成する
相続人に寄付を頼む方法もありますが、自分の意思を確実に実現するには遺言書を作成して遺贈先を明記しておくのが一番です。
内容に不備がないように、司法書士・弁護士等の専門家に公正証書遺言の作成を依頼しましょう。
③遺言執行者を指定する
遺言通りに財産を分けるためにも、遺言内容を実現する遺言執行者の存在は不可欠です。寄付が執行されないリスクがないよう、専門家などの信頼できる第三者を指定しておくことをお勧めします。
4 人生最期のお金の使い方
自分がこの世を去った後、最期に残った財産を使って社会へ恩返しをする。それが遺贈寄付です。最期のお金の使い方の中に、少額でも遺贈寄付という選択を入れてみると、人生最期のときを少し誇らしい気持ちで迎えられるかもしれません。
執筆 司法書士法人ファミリア
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